児童養護の理想と現実~児童養護施設ではすべてを解決できない~
少子化対策の必要性に迫られる現代
【児童養護施設ではすべてを解決できない】
厚生労働省によると、「社会的養護が必要な対象児童者数」は日本全国で約4万5000人にのぼるとされています(平成31年4月現在)。同省ホームページによれば「社会的養護」とは「保護者のいない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難な問題を抱える家庭への支援を行う」取り組みのことで、「子どもの最善の利益のため」に「社会全体で子どもを育む」前ページの表は、今年の4月に厚生労働省が発表した資料(社会的養育の推進に向けて〈参考資料〉)です。現在日本には、大きく分けると主にふたつの社会的養護の方法があります。ひとつは乳児院や児童養護施設などの「施設に入所させる」方法、そしてもうひとつは、里親への委託や養子縁組などの「別の家庭で育てる」方法です。
現在は、社会的養護全体の実に7割近くが、「施設への入所」という形を取っています。しかし、乳児院や児童養護施設で育てることは、必ずしも最適な方法とは言えません。
児童養護施設に入所する子どもたちの中には、元の家庭で満足な食事がとれていなかったり、暴力や性的虐待を受けていたケースがあり、施設に入ることでこれらの状況から解放されることは事実です。
一方で、これらの施設は一般家庭と比べ、決して満足な環境ではありません。確かに以前と比べると施設での生活は劇的に改善され、家庭に近い環境が整えられてきています。
それでも厳然として、複数の子どもたちを数人の職員が交代で見ている状況は変わりません。当然ながら職員にも自身の家庭や生活があります。実の親のように一日中、一年中一緒にいてあげられるわけではありません。職員の方々の懸命な努力にもかかわらず、どうしてもそこに限界が生じます。
「家庭」という区切られたスペースの中で、特定の親のもとで愛情をいっぱいに受けながら生活する、という経験は、施設では実現が難しいのです。「親」という不動の存在、一対一の親子関係のもとでじっくり養われる親との愛情関係が、そこには存在しないからです。
実際、施設で育った子どもたちは、母親など養育者への適切な愛着が形成されず、後々に対人関係などで困難を有する愛着障害に陥るケースも多いとされています。
このように「施設への入所」という方法では、子どもの成育に欠かせない重要な要素が十分に満たされません。それなのに社会的養護全体の7割近くを占めている現状は、改善されるべきでしょう。
「不動の存在」のもとで「日常の安心感」を育み、一人一人の能力や資質に相ふ さわ応しい充実した学習環境を用意する。成人後には望ましい経済基盤を用意し、貧困に陥らないようにする。暴力や虐待の連鎖を生まないために、適切な精神的支援を行う。これらの養護のために、やはり「家庭」に勝るものはないのではないでしょうか。
事実、施設保護を段階的に廃止し、すべての子どもたちに家庭環境を与えるという、国連の指針に沿った取り組みが、国際的には一般的になってきています。日本はこれまで遅れをとっていましたが、ようやく平成29年7月に児童福祉法が改正され、厚生労働省が未就学児の施設入所処置を原則停止とする方針を発表しました。日本の里親委託率はOECD諸国で最も低く、この法改正は画期的な方向転換と言えます。
施設への入所を減らす代わりに「家庭」で育つ子どもを増やしていくために、私たちが勧めるのが「里親への委託」です。私たちはその中でも「特別養子縁組」という選択肢の推進に取り組んできました。
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KEYWORDS:
『インターネット赤ちゃんポストが日本を救う』
著者:阪口 源太(著)えらいてんちょう(著)にしかわたく(イラスト)
親の虐待や育児放棄を理由に国で擁護している約4万5000人の児童のうち、現在約7割が児童養護施設で暮らしています。国連の指針によると児童の成育には家庭が不可欠であり、欧米では児童養護施設への入所よりも養子縁組が主流を占めています。
本書ではNPOとしてインターネット赤ちゃんポストを運営し、子どもの幸せを第一に考えた養子縁組を支援してきた著者が国の制度である特別養子縁組を解説。実親との親子関係を解消し、養親の元で新たな成育環境を獲得することができる特別養子縁組の有効性を、マンガと文章のミックスで検証していきます。